アペフチ

ケースから取り出して作ったばかりの眼鏡のフレームを耳に乗せるとファミレスのメニューブックのステーキの写真が目に飛び込んで来たのだが、一瞬後にまたぼやけた。それから改めてゆっくりと焦点が合い、周辺のグラスや皿なんかもよく見え始める。
眼鏡をかける動作によって眼筋が混乱したのだろう。これまでの度の合ってない眼鏡にアジャストされていた眼筋たちは僕の眼鏡を掛けるという動作を引き金に条件反射でこれまで通りの収縮或いは弛緩をした。これはつまり、眼筋は水晶体で屈折して入ってくる光の焦点を自動的にうまく合わせたり、僕の脳からの命令でわざと焦点をずらしたりするという器官ではなくて、眼鏡を掛ける、という腕の動きを覚えさせられた、独自の記憶を持つという器官なのかも知れないと思った。